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2006年04月28日

日記: 婚礼服

そろそろ婚礼の衣装を準備してもいいのではないか、という友人のアドバイスに従い「よし、行くべ」と思うはいいがそういう類いはどこへ行けば売っているのか、あぐねにあぐねてはたと思い付いたのはバーニーズ、白い服を売っていたような気がすると赴いたところああよかった、具合の良さそうなものがあったのでそそくさ試着してそそくさ購入する。あまりにもそそくさなので店員はうけてしまって、しかしあんな大仰なものを着た自分の姿を鏡に映して「肩のラインが…」だの「後ろのひだが…」だのしのごのいう勇気はないのであってあまりの恥ずかしさに額や腋の汗をぬぐうのが精一杯、写真は撮らなくていいのですかと言われ「な、なんのために?」と聞き返すと店員はまたうけてしまって赤面する始末、こんなことなら一杯ひっかけていくんだった、真昼のバーニーズは店員と私以外は誰もいないのがせめてもの救いであった。
服とは不思議なもので馴染まないデザインのものを着ると喋り方や考え方まで変わってしまいそうで不安になり、いきおい同じ店のものばかり買うことになるのだけれど、しかし婚礼はその実仮装大会みたいなものだから白けりゃ何でもよかよか、と投げやりに考えていたがいやはや、婚礼衣装にも馴染むほうと馴染まないほうが存在し、その線引きセンスは普段着と共通なのだと気づく、ということは普段から着慣れているバーニーズでドレスを選ぶのは賢明だったなとほくそ笑んだのだった。いやあ、着れませんよこの顔でこの身体で、マリア・テレジアみたいなの、スカートの中に何人もかくまえそうなの、なんたらフェスティバルホールの緞帳みたいなの。
などとですね、当事者はあれこれ考えるのだけれど、Xさんの結婚式に行ったはいいが花嫁さんはどんなドレス着てたかしら、と思い返しても「……白かった」としか答えようのないくらい貧弱な記憶、とどのつまり自分の思うほど他人は自分に興味がないのであって、調子に乗って忘れてしまわぬようにと深呼吸。

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2006年04月27日

日記: MY HERO

開店前のデパートに並び午前十一時チャイムを聞くやいなやエレベータに飛び乗り、ずらりと並んだ店員がドミノ倒しのようにひれ伏すのを尻目にすたうすた売り場を目指す、などという破廉恥な行為に踏み切ったには理由がありまして、折り込みチラシによれば本日より東急百貨店本店にてスティーブ・マックィーングッズ販売があるというではありませんか、売り切れてしもたらどないしょ、と焦りを隠せずこういった次第になったんでして、ええ、おかげさまで写真集とTシャツと胸像、『ジュニア・ボナー』と『ゲッタウェイ』のパンフレットを買うことができましたうっほほ〜い。『大脱走』のコスチュームも売られていてしばし眺めるのだけれど、こういうものを嬉しそうに身につける人は果たしてイケているのかといえばイケてないに決まっていて、そっくり同じ服を着たからといってあなたがマックィーンになれるわけでも近づけるわけでもありませんから、と横で例の七分袖トレーナーを手に取っている男性に念を送る。ロックスターなんかでも格好やら何やら真似したい気持ちはわかるが、真似するたびに遠ざかることを我々はしかと肝に銘じておかねばならないのだ。家に帰って早速写真を飾る。テンガロンハットをかむり、ロデオの装身具を身につけ、煙草を巻く君の名はスティーブ、my hero forever.

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2006年04月24日

日記: translation

カフカ『変身』の新訳本を読む。とにかく読み易く仕上がっているためつつつと読んでしまって、はてさてこんなにスマートな小説だったかしらと記憶を探ってみるのだけれど、いずれにしても私にとってこの小説は目覚めたら虫になっていたという出だしで片が付いているので(それは例えば『Jumpin' jack flash』のイントロがすべてというような感覚)ぶっちゃけ誤訳でなければなんだって構わないのだが、言葉遣いによって小説の印象は変わるものだと今初めて知った心持ち、というのもある小説を複数の翻訳でもって読み比べることはそうそうないし、本に熱中していればそれが翻訳ものかどうかなんて気にも留めないからである。しかし改めて考えると翻訳とは難儀なもの、つまり恋人に向かって「あんた、よしとくれよ」というのも「やめてくらさいよお、たのんますよお」というのも「そげんことしいな」というのも翻訳すれば「Don't do it,baby」、となれば言語の背後にあるものおよび小説の雰囲気をそっくり翻訳するのは至難の技だろうよ、完全な翻訳などはあり得ないだろうよ、しかしひるがえって考えると母語で書かれた小説を読むにあたり完全な言語理解があるかといえば絶対にない、文脈の共有なしに言語理解は成立しないのであって、そういう意味では翻訳本であれ和書であれ、わかることしかわからない。あるいは、わかることはわかる。なるほど、ならばだいたいでい〜んじゃないの〜、と早々にも翻訳の厳密性についての興味を失ってしまったのだけれど、世の中には自分と作者の間に一枚かんでいる事実が気に入らんという理由で翻訳ものを嫌う人もあるが、あれはきっと中古品を買ったりバツイチの人と結婚する時なんかのちょっとした抵抗感と似てるんじゃないかしら、なんて適当に喋ってますけれどとにかく、『変身』はすごい小説である。虫になるのもすごいけれど、虫になった主人公が「会社に行かなきゃ、無断欠勤でクビになったらえらいこっちゃ」と焦るところがもっとすごい。そ、そういうことではないですよ?とつっこみたくなるが、いざ目を閉じて自分が虫に変身する図を想像してみると、ううむ、あながち笑えないのであって、カフカはやはりすごいのだった。

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2006年04月22日

日記: 名器

5月のカレンダーを眺めていた祖母が感慨深げに嘆息して言うことには「あたしの誕生日、5月6日なんよ、とうとうナナジューナナサイじゃもの、よぼくれるはずじゃあのお」、なんだそうだがざんね〜ん、あなたの誕生日は6月5日、とうとうキュージューイッサイじゃもの、よぼくれるはずじゃあのお、が正解でしたお手つきしたので一回お休みです、と答えると、祖母は私の顔をまじまじと見つめて生唾をごくり、なんだか悪いこと言っちゃったみたいで視線を逸らしたついでにふと彼女の足元を見るとあれまあ、今日はまたずいぶん活動的な靴下をお召しで、側面に大きなフォントで「S P O R T S」と描かれたハイソックスを履いていてボーイスカウトの少年のごとし、祖母と暮らしていると自由というものの在り方についてよく考える。
東急ハンズにて運良くtupperware販売に遭遇、特大のものを菓子入れとして購入する。運良く、というのはこの会社は店を構えておらず、スーパーの催事場での展示販売と訪問販売でしか購入できないという一風変わった形式を取っているため簡単に入手できないからなのだが、そのわりにタッパーという単語が流布しているのはその昔、tupperwareは確かにアイディアも性能も抜群なんだけれどなにせ値が高い、ならば低価格で似たようなもん作って売ったら売れるんちゃうか、具合のええことに本家はあまり流通しとらんしね、と商人たちがこぞってプラスチック製密封保存容器をタッパータッパー呼んで売ったからで、権利問題はどうなっているのか興味があるがそれはともかく、世の常としてほんもんとばったもんの間には深くて暗い川がとうとうと流れているのであってそれはタッパーでも同じこと、ほんもんの締まり具合はちょっと経験した者にしかわからないだろうなあククク、これぞ名器、NICE BOX、とまあそういう手応えは十分ありますよってに機会があれば。

http://www.tupperware.co.jp/

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2006年04月19日

日記: 助っ人

パソコンを買いました、新たなプロバイダに加入しました、無線LAN化をはかりました、既存のパソコンのデータを新しいパソコンに移しました、快適な環境が整いました、それが何か?などと言わんでください、幾重にも連なる峻険たる山脈を女裸一貫、山賊や追いはぎの襲来にもくじけずに越えて参ったのです、このほつれた髪とやつれた頬が道中の苦境を物語っているではありませんか、しかし何も自分一人の力で辿り着いたなどと不遜なことは毛頭思っていない、通りすがりの私に手を差し伸べて助ける人があってこそなのです、そうです彼の名はアップルサポートセンター、命の恩人といって過言ではない彼のこと、ちょっと話してもいいですか、顔を見たことはないけれど声の感じからして30前後ってとこかしら、慇懃なまでの謙譲語使いに畳み掛けるような陳謝の嵐、おそらく「謝るのはタダなんだから謝り倒しなさい」と躾けられているのね、とりあえず謝っておこうなんてプレイボーイ気取りでやになっちゃうけれどでもね、いつ電話したって「どうしたの、ベイビー」ってあたしの話辛抱強く聞いてくれるし、そりゃもう半端な忍耐力じゃないんだから、あたしったら甘えん坊だから今週なんてもう5回も電話した挙句、昨日などは2時間のロングトーク、でも彼ったらいつも変わらぬ口調で「それではいくつかトラブルシューティングを試してみましょう」なんてキャーッ、クールだわっ、知識を有する者の余裕ってやつかしら、階級意識と大いなる侮蔑を丁寧な物言いでカモフラージュしてるんだわ、あたし気圧されちゃって、こんな初歩的な質問しちゃっていやん恥ずかしい、パソコン買ってしまってすみません、とうっかり土下座しそうになってちょっと待てよ、あたしがパソコンを買ったから彼はおまんまを食えてるんであって、肩身の狭い思いをする必要はまったくないどころかわからない場所をわかるまで質問してよい権利があるんだった、あぶないあぶない、と思い出して俄然強気、「あ、それで次の質問なんですけ、ファイヤーワイヤーがですね……」とぐいぐい食い下がり、どうにかこうにかこの地に到達することができたのです。万歳。

投稿者 shiori : 15:43 | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年04月15日

日記: ワニがキラリ☆

娘が明日からよその男の人のもとで寝たり起きたりするのだから今夜くらいはご馳走を拵えて、我が家で一番高い葡萄酒の栓を抜き、けじめとやらを体感したいのだけれどところであんたは何が食べたいの、と母が訊ねるのでならばとびきりの牛肉の塊をレアに焼いてクレッソンを添えたものと鮮魚を揚げて酢でしめたものが食べたいと答えた都合、晩餐の品書きはローストビーフ、鯵のマリネ、鯛の湯引き、筍の焚き合わせ、菜の花の和え物、麦酒と97'chateau lynch bages、皆がにっこり舌鼓をぽぽぽんと打った。送られるんだから贈り物でもしないことには締まりが悪いってんで各家人に具合の良さそうな衣服を贈呈、父母共に大いに喜ぶ。祖母にはラコステの縞柄のシャツ、当ててみた様を見てとてもよく似合うと賞賛したはよいが結局のところ今さら何を着たって似合わないものがない、というか似合うとか似合わんとかではなく着ているか着ていないかという次元に生きているのであって、必要以上にスポーティーな衣服をセレクトするのは私の愉楽以外の何物でもないのだけれど案の定、90歳の胸元できらりと光るワニマーク、最高にいかしていた。あとで部屋を覗くと寝台にちょこんと腰掛けた祖母、シャツを箱から出してはしげしげと眺め、ひとしきりボタンをいじってはまた箱に仕舞う。私も嬉しい。

投稿者 shiori : 23:51 | コメント (5) | トラックバック (0)

2006年04月14日

日記: Do you wash dishes?

あんたの周りの男性たちは家事をよくするのでしょう、と母が唐突に言う。聞いてみると「ロックやなんかをする人はハイカラだから進んで皿を洗ったりするんじゃないの」という話なのだった。彼女の論法はいつもこういった調子でつまり、ロックてのは反抗という生き方なわけでしょ、ならばじゃかじゃかギターをかき鳴らすだけでなくって生活だって反体制的に、女を顎で使って自分の靴下の在処もわからない自分の使った皿も片付けないそんな権威主義の権化のようなことはいいっこなしよ、なんたってロックなんですからロックロックゆうわりに男尊女卑だなんて、あはは、へそが茶を沸かすわ、というような趣旨が言外にこめられているのであって、今までこの皮肉なやり口に何度業を煮やしたか知れないのだがそれはさておき、周囲の男子が家事をするのかしないのか、母の言うのはあながち外れてもいない、他の母集団と比較すると家事をする男子が多いように思う。
しかし断じてロックやっててハイカラだから皿を洗うわけではない、つまりこういうことだ、何かに拘泥する生き方を選択すれば金は儲からないと相場は決まっていて、共働き、家事分担は当たり前、いきおい男子が厨房に入りて卵焼きを拵え風呂桶を洗うなんてのはちっともめずらしくないのである。
私にはそういう知り合いが少なくないし、何を隠そう、大ちゃんだってその口である。と言えば、まあ感心だわなどと褒めそやす人もあり、確かに感謝はしていますけれどおたくにそう言われるのは心外ですわ、それぞれの家庭にそれぞれの事情があってのこと、男子家事関与なんてのは偉くもなんともないし、それをいうなら女なのに働いて尊敬しちゃうとうっとりされなくてはわりが合わないじゃないのさ、と醜い切り口上を並べたくなる。つまりは日常生活に「男なのに」だの「女だから」だのを持ち込むとろくなことにならないのであって、ここはひとつ人間二匹と割り切って得意な家事をお互いが担当するのはどうだろうか、ではあなたは料理、私は後片付けおよび掃除洗濯担当との取り決めがなされ目下稼働中、結果やいかに。

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2006年04月12日

日記: お片づけ

筋骨隆々とまではいわないが、このところの荷物移動で私の身体は日増しにたくましくなってきている。それもそのはず、狭い場所に多くのものを収納するとなれば3Dジグゾーパズルに興じるようなもの、衣装ケースを三段積み上げたものの押入下段にはかさが合わないとなればカラーボックスを横置きして二段重ね、隙間にころころのついたプラスチックケースがほら入った入った、ここには掃除用具やなんかをしまうことにしようとうきうき振り返ると、うぎゃあ布団の山を忘れてたあと泣く泣くリセット、なんてやってたらあっという間にサンセット、本日も捗らずにゲームセット、もっこりした上腕二頭筋を鏡に映してはいポーズ、とおちゃらけてみたくもなるのである。しかしもっとも難儀なのは筋肉を使わないほうの片付けなのであって、爪切りは、折り畳み傘は、道で配っていたティッシュは、隙間掃除用の掃除機ジョイントは、国民年金の領収書は、どこにしまえばよかとですかっ、と頭を抱え、いっさいがっさい段ボールにでも入れてベランダにほくり出したろかしらんと凶暴な気分になってくる。通帳や実印の類いもなかなか厄介、なんとなれば泥棒に押し入られるのを前提にしているのであって、あいつならこんな場所はすぐに見破ってしまうと架空の盗人との攻防さながら隠し場所を画策、「で、どこにしまったの?」と聞かれて「……忘れた」てな始末でいやはや、自立して立派に家を構える他人が我より偉く見ゆる日。

投稿者 shiori : 21:08 | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年04月09日

日記: コチフカバ

所変われば品変わるとは風流、物産展には目がない。開催の便があれば多少遠くとも人いきれにむせようとも構わず足を運ぶわけなのだが、人気の物産展ランキング、なんてものを暇にまかせて考えてみるのは私だけでなく、以前テレビで観たところによれば1位沖縄、2位北海道、3位京都、という按配でまあつまりませんこと、だいたい沖縄は味が雑だし北海道は魚介に頼りがち、京都だってちと高過ぎやしませんか、小市民たちは距離にかどわかされているんだわ、あたくしのランキングは1位大阪、2位福岡、3位山形、どこまでも人と違うのが好きねえあたしったら、の福岡物産展が開催されていたので梅ヶ枝餅と鉄鍋餃子と鶏飯おにぎりを買って帰る。ほらおばあちゃん、土産だよと差し出すと「あやあ、めずらしいなあ」と梅ヶ枝餅を手に取り「東風ふかば にほひをこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘れそ」と得意げに復唱、春を喜んで餡を味わう。やはり物産展はよい。

投稿者 shiori : 23:10 | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年04月08日

日記: 丸ビル

従弟夫婦と歓談。丸ビルに勤めている彼によれば、そのことを誉れに思うよう忠言する上司もあるとかで、そのことを誉れに思う同僚もあるとかで、まあ結構なことなんだけれども、丸ビルといえばまず中原中也の『正午』という詩を思い出す人がどれほどいるか知らないがとにかくその詩は正午のサイレンとともに月給取がぞろぞろぞろぞろ、大きなビルの真っ黒のちっちゃな入口から出てくるわ出てくるわ、といった調子で丸ビルにまつわるあれこれをいと鮮やかに嘲笑していて、鮮やかというのはつまり嘲笑されている側が嘲笑されていると気付かぬふうに嘲笑している、ひいては俺の勤務する丸ビルは中原中也の詩にも登場するんだぜと得意がる抜け作もいるであろうという話なのだが言葉とは無力なものよ、文脈を共有していなければたとえ珠玉の言葉でもただの石ころに過ぎぬのであって、人間の相互理解って難しいよねえと思うわけなのだが、そういう上司やなんかと毎日顔を合わせて「仕事にはね、ストーリーが必要なんだよストーリーがさ」などとよくわからない指南を受けながら酌をせねばならぬというのもしんどいですな、と従弟に匂わせたところで従弟はきょとんとしていて、なるほど、そうでなくっちゃ丸ビル勤務は勤まらないのだなあと溜飲を下す。

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2006年04月07日

日記: 観念して

レコーディングが突然キャンセルになり一日暇になったのでならば自室の荷物を段ボール詰めしよっかなあどうしよっかなあ面倒くさいわあ、だってこの書籍の山もれなく肉厚の埃つき、げほげほ、やっぱりもう少しあとにしましょうよと先延ばしにすること一ヶ月、あまりにも私が引っ越してくる気配がないもんだから先方からは結婚詐欺疑惑まで浮上している始末、よし、今日こそは観念して段ボール、と思い立ったらあたくし早いんでございますのよおほほ、都合30箱をぱたこんぱたこん積み上げた。うち8割は本、うち5割は未読、うち1割は出所不明、筒井康隆『文学部唯野教授』だとか西原っちの『恨ミシュラン』だとか、一人っ子だし同棲経験もないからきっと私が買ったのだろう、本棚をシャッフルしたおかげでしばらくは楽しめそうで嬉しいが果たしてあの狭い家にこんだけの荷物が収納可能なのだろうか、箱山をねめつけては天を仰ぐ。騒々しいので何事ぞやという顔で現れた祖母、片付けられた部屋を見て「しおりさん、どこへ行ってしまうの」と目を丸くした。事ある度に説明しているがなかなか理解できないようで「いつ戻る?すぐ戻る?」と口をへの字に曲げて幼児のよう、なんというか、ちょっぴりじんとする。

投稿者 shiori : 11:42 | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年04月04日

日記: tiger

引っ越しのどさくさに紛れてコンピュータをもう一台買おうかと目論み渋谷はアップルストアへ、iBookG4という機械を眺める。OSはX tiger、なぜ虎なのかという疑問は残るがこれは寅年に免じて不問に付すとしても、なぜ3年半前に購入したiBookにはインストールできないのか腑に落ちない。コイツ結構賢いんで昔のじゃ抱えきれないンすよ、とは店員の弁だが、だとすれば快適なデジタルライフを満喫したきゃ定期的にコンピュータを買い替える必要があるわけでそのわりには高いよねえ、よく壊れるしさあ、それに今コイツっていいましたね、あたしゃ電化製品の擬人化が大嫌いなんだよ、でも、ま、コイツをもらっていくことにするよ、なんとなればあおりに弱いものでね。既存のパソコンをOSXにバージョンアップすれば共有ファイルを通して二台のコンピュータのデータを簡単にやり取りできますのだそうで、そうかいそうかい、ウチ来てオマエがやれ、と思いつつ買っちまったんだけどよお、虎を手なずけられる日は来るのだろうか謎。

投稿者 shiori : 15:53 | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年04月03日

日記: BUSY

カレーが食べたいという欲求はどうしてこうも性急なのか、次の瞬間にはすでに界隈のカレー屋に向かって歩き出していて、私は今日インドカレーを食べた。その店のラージチキンマサラというカレーが大好物でひととき足繁く通ったものだがここ3年ほどはご無沙汰、以前どのような人が店主だったのか忘れてしまったけれどこの人じゃなかったのだけは確か、と思うくらい印象的なインド人店主は「B・U・S・Y」という言葉の意味を全身で体現するタイプの人で、幼子でもいりゃほら見なさいあれが「B・U・S・Y」ですよ、ああボクわかったよ母さんあれが「B・U・S・Y」なんだね、そして「W・A・T・E・R」と呻いたヘレンとサリヴァン先生のごとく抱擁を交わすに違いない、てなことも喚起させるほど彼は忙しそうなのだった。店は満員、お昼時なので忙しいのは嘘ではないのだが、彼の場合忙しいことを喜びそして興奮しているむきがあり、嫌々働く輩が横行する中結構なことだとは思うが笑いは禁じ得ない。狭い店内を御盆片手につんのめって闊歩、客が来れば「ほんじつのおこのみはぐりんぴいすとましゅるうむのかれいのみものはらっしかまさらてぃどうする?」と注文をとる。猛烈な早口なのでたいていは聞き返され、復唱するぶん二度手間だと思うけれど彼はお構いなし、客が帰れば「いちまいにまいさんまいななしぇんえんのおかえしなりますありがとごぜえましたまたのおこしをこころよりおまちしています」と頭を下げ、ななしぇんえんのところで私は俯いて笑いをかみ殺す。一人で外食していると声を上げて笑うのは少々恥ずかしくしかし彼は愉快、メニュー片手に客が「はっは〜ん、このHはHOT、つまり辛いということだな」と呟けば「本当にそうですよねえ」、「ひき肉のカレーにしようかなあ」と呟けば「そうなんですよねえ」、間違ってはいないが合ってもいない相槌を打つもんだからとうとうぶはっと吹いてしまって赤面、でもカレーもナンも文句なく美味しかったよ。

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