2006年04月08日
日記: 丸ビル
従弟夫婦と歓談。丸ビルに勤めている彼によれば、そのことを誉れに思うよう忠言する上司もあるとかで、そのことを誉れに思う同僚もあるとかで、まあ結構なことなんだけれども、丸ビルといえばまず中原中也の『正午』という詩を思い出す人がどれほどいるか知らないがとにかくその詩は正午のサイレンとともに月給取がぞろぞろぞろぞろ、大きなビルの真っ黒のちっちゃな入口から出てくるわ出てくるわ、といった調子で丸ビルにまつわるあれこれをいと鮮やかに嘲笑していて、鮮やかというのはつまり嘲笑されている側が嘲笑されていると気付かぬふうに嘲笑している、ひいては俺の勤務する丸ビルは中原中也の詩にも登場するんだぜと得意がる抜け作もいるであろうという話なのだが言葉とは無力なものよ、文脈を共有していなければたとえ珠玉の言葉でもただの石ころに過ぎぬのであって、人間の相互理解って難しいよねえと思うわけなのだが、そういう上司やなんかと毎日顔を合わせて「仕事にはね、ストーリーが必要なんだよストーリーがさ」などとよくわからない指南を受けながら酌をせねばならぬというのもしんどいですな、と従弟に匂わせたところで従弟はきょとんとしていて、なるほど、そうでなくっちゃ丸ビル勤務は勤まらないのだなあと溜飲を下す。
投稿者 shiori : 13:35