« 名器 | ホーム | MY HERO »

2006年04月24日

日記: translation

カフカ『変身』の新訳本を読む。とにかく読み易く仕上がっているためつつつと読んでしまって、はてさてこんなにスマートな小説だったかしらと記憶を探ってみるのだけれど、いずれにしても私にとってこの小説は目覚めたら虫になっていたという出だしで片が付いているので(それは例えば『Jumpin' jack flash』のイントロがすべてというような感覚)ぶっちゃけ誤訳でなければなんだって構わないのだが、言葉遣いによって小説の印象は変わるものだと今初めて知った心持ち、というのもある小説を複数の翻訳でもって読み比べることはそうそうないし、本に熱中していればそれが翻訳ものかどうかなんて気にも留めないからである。しかし改めて考えると翻訳とは難儀なもの、つまり恋人に向かって「あんた、よしとくれよ」というのも「やめてくらさいよお、たのんますよお」というのも「そげんことしいな」というのも翻訳すれば「Don't do it,baby」、となれば言語の背後にあるものおよび小説の雰囲気をそっくり翻訳するのは至難の技だろうよ、完全な翻訳などはあり得ないだろうよ、しかしひるがえって考えると母語で書かれた小説を読むにあたり完全な言語理解があるかといえば絶対にない、文脈の共有なしに言語理解は成立しないのであって、そういう意味では翻訳本であれ和書であれ、わかることしかわからない。あるいは、わかることはわかる。なるほど、ならばだいたいでい〜んじゃないの〜、と早々にも翻訳の厳密性についての興味を失ってしまったのだけれど、世の中には自分と作者の間に一枚かんでいる事実が気に入らんという理由で翻訳ものを嫌う人もあるが、あれはきっと中古品を買ったりバツイチの人と結婚する時なんかのちょっとした抵抗感と似てるんじゃないかしら、なんて適当に喋ってますけれどとにかく、『変身』はすごい小説である。虫になるのもすごいけれど、虫になった主人公が「会社に行かなきゃ、無断欠勤でクビになったらえらいこっちゃ」と焦るところがもっとすごい。そ、そういうことではないですよ?とつっこみたくなるが、いざ目を閉じて自分が虫に変身する図を想像してみると、ううむ、あながち笑えないのであって、カフカはやはりすごいのだった。

投稿者 shiori : 01:07

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://freedom.s13.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/217

コメント

かの村上Hに「翻訳って大変ですよね。英語を訳すだけでも大変なのに・・・」と聞いたところ、「え、原文なんて読んでたら翻訳なんて出来ないよ。」って言う答えが返ってきた、というのは多分有名な話だよね。
確かにあの人の翻訳した小説って完全に彼のワールドだもんな。
ただ、誰かの作品をベースにした、ってだけか。

ですから彼の翻訳に対する姿勢は正しいように思います、
どうせできないんだから。
サトシはどの翻訳本を読んだのですか?
私はレイモンド・カーヴァーとティム・オブライエンしか読んだことないので
おもしろいものがあれば教えてください
ポール・オースターなどを翻訳している柴田さんと対談している本があるのを思い出しました
まだ未読につきこちらも読みたいと思います

アメリカ文学科のわりに全然本を読んでないので
お恥ずかしいのだが、確かジョン・アーヴィングのは
なかなか良かったように思います。
それも、ゼミの課題でホントは原文を読まなければならなかったところを、
あ、村上春樹の訳があるじゃん、ってなっただけで。
でも、前述の通りの翻訳なので、原文読むハメになりましたが。
あ、フィッツジェラルドも読んだかな。
数年前に「ライ麦畑で・・・」も訳してるはずだから、読みたいと思ってたんだけど、
まだ読んでない。

引っ越しによる本棚シャッフルで
ジョン・アーヴィング『熊を放つ』という本が発見されたところなので
読んでみようと思います
かねてより村上さんはノーベル賞をとるのではないかと
踏んでいるのだけれど、どうだろうか

コメントを投稿