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2007年12月07日

日記: 大凶

 大凶の一日。十年に一度あるかないかの凶悪ぶりであった。
 朝、昨日の術後経過を診せに行くと、医者が渋い顔をする。なんでも、また左目のフラップにしわが寄っているらしい。またですか、とうんざりした声を出すと、こういうケースは僕も初めてで、なんて言っている。手術当日は眼球とフラップがはがれやすいので、ちょっとした風や衝撃にも注意する必要がある。運動はおろか風呂も洗顔も、瞼に指一本触れてもいけない。もちろん私はその言いつけをきちんと守った。なのに。どうして。まあ思い当たるふしといえば、昨晩泣いたことか。目をぎゅっとつぶった拍子にずれることもあるというから。しわがいってしまったものは仕方ないとはいえ、昨日の処置の痛みを思い返すと、私はほとほとうんざりしてしまった。
 シールや保護フィルム(ゲーム機器や車の窓ガラスやなんかの)を想像していただきたい。首尾よく貼ったつもりがしわが寄ってしまい、もう一度剥がして貼り直す。でも一度ついたしわはなかなか伸びないし、シールと表面の間に細かいゴミが入ったりして、そういう場合は表面のゴミを綺麗にこそげてから貼り直して、普段より強めにシールを押さえつける。
 これを目でやるのだから、こちらはたまらないのである。私は何かと病気がちで様々な痛みを経験しているし、忍耐力もあるほうだと思うけれど、今回の処置の不快指数は過去最高を記録したかもしれない。擬態語で言えば、ちくちくとしくしくがかわるがわるやってくる感じだ。レーシックを受けた人のほとんどはフラップにしわなんかなくてすいすい帰っていくのに、どうして私はこんなものを二回も受けてるんだっ。だっ。と呪ううちに手術を終了、休憩室で目を休めて最後の診察を受けた。ところが。
 またしわが寄っているというのである。
 後半42分に失点。勝たねばならぬ試合なのに。
 喩えていうなら、そういう絶望感であった。ロスタイムでなかっただけ、ドーハの悲劇よりはましだったか。
 申し訳ないけどもう一度処置を受けてください、と医者は言った。どうやら目が乾きやすい体質なのだろうとのこと。体質と言われれば患者としては受け入れるしかないわけだが、だいたいこの病院は合理化かなんかしらないけれど、毎度毎度診察医と執刀医が違うため責任訴追しにくいし、寄る辺もないのでひどく不安なのである。安い病院を選んだ私が馬鹿だった。
 安い病院と高い病院の差はこういう時に出る。つまり、有事の際の対応が行き届くかそうでないか、なのだ。95%の人々は滞りなく退院していくのだし、もちろん自分もその一人のつもりなのだが、今回のように運悪く5%に当たってしまうと、こんなにヘヴィな思いを味わうことになる。それでも今回の手術は18万、丁寧な対応の病院は50万……。むつかしいんである。
 それで結局、私は三回目のしわのばし処置を受けて、ほとんど死んだつもりで耐えて、おばあちゃんが死んだ、あーそーですかそれが何か?という心持ちで、看護士さんから「三回」という方は前代未聞だと聞いて余計疲れたわ。あほ、あほ、どあほ。ほうほうのていで帰宅したあとも、三回あることは四回ある、という妄想に取り憑かれ、子羊のように震えて眠る。嫌な夢をたくさん見る。

投稿者 shiori : 13:17

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