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2007年04月13日

カタカナ: ゴールドベルグ変奏曲2 Goldberg variations

 前回の続き。
 ゴールドベルグ変奏曲は「アリア(主題)+30の変奏+アリア(主題)」の32曲で構成されている。このアリアに関しては『羊たちの沈黙』のレクター博士のテーマとして使われたり、テレビでも再々かかるので聴けばご存知の方も多いのではないだろうか。32小節から成る美しい旋律で、G→F#→E→D→B→C→D→Gとベースラインが動いていく。驚くべきはこのラインが3曲の短調を除く27の変奏に共通しているという点だ。リズムや曲想がまったく違うので、あるいは聴いているだけでは気付かないかもしれない。ベースラインは違ってもブルース・スプリングスティン『hungry heart』と佐野元春『someday』のほうが100倍同じだ(両方好きですが)。
 30の変奏はカノンを中心とした3曲が組になっている。カノンとはあるメロディを歌っている脇で、それを忠実に模倣したメロディを歌う曲のこと。例えば「かえるの歌が〜」はカノンである。まったく同じメロディは同度のカノンと呼ばれる。これが二度のカノンだと「ドレミ」と歌う脇で「レミファ」と歌い、五度のカノンだと「ソラシ」と歌う(鏡像カノンだと「ソファミ」と歌ったりするが詳細は割愛)。バッハは同度から9度まで都合9種のカノンをすべて作ってみせた。もちろん同じベースラインである。こうなると魔法というかチャネリングというか、にわかには信じがたい才能だと思う。
 演奏技術の話をすると、カノンはメロディの弾き分けが難しい。皆が同量の声でがなっていてはせっかくの曲も台無しなので工夫が必要だ。カノン以外にも技巧的な変奏という分類があるのだけれど、こちらはもっと難しい。もともと二段鍵盤用(エレクトーンみたいなもの)に作曲されたものを無理矢理ピアノで弾こうとしているので、手が交差したり音がぶつかったりする。それでいて速度も求められる。自分の手を見ていて、目が回りそうな感じである。
 このように様々な試練をくぐり抜けて30の変奏を終えたあとに、再び主題のアリアに戻って来る。曼荼羅といえばよいだろうか。それは慈愛に満ちた宇宙のようで、ちょっと感動してしまうのである。

投稿者 shiori : 11:27

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