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2006年11月29日

日記: のりしろ

 母が帰って来たので、一週間ぶりに自宅に戻る。祖母から解放されて、少し嬉しい。介護といって大層なことをするわけではないけれど、やはり最低1時間に一度、食事の際には10分に一度は用事があるので、そこで作業は中断される。いったん何かをやり始めると時空間を忘れる傾向にあるので、タイマーをかける。りんりんと鳴りました、はいはいと用事を済ませて、またすぐにやりかけの作業に戻る。集中する。タイマーが鳴る。用事を済ませてまた戻る。
 しかし残念ながらそう上手くはいかない。例えば歌の稽古をしていて「うさぎおいしかのやま こぶ」というところでタイマーが鳴っておむつを交換しました、戻ってすぐに「なつりしかのかわ」とはならず、はあ、おむつ替えた替えた、とソファにどさっと腰かけ、そこらにある雑誌を見るともなく眺めて、ちょっと一杯お茶を飲んだりして、じゃあぼちぼち戻りますか、とピアノに向かってもう一度頭から「うさぎおいし」とやるわけである。極めて非合理的なのである。
 まあこれは大袈裟な例ではあるけれど、寝たきり老人や乳飲み子を抱えている人は多かれ少なかれそういうものだと思う。相手に情があればあるだけ、切り替えが難しくなる。のりしろがないと次に進めない。
 ただし、のりしろの塩梅は個人の裁量だ。最低限の分量で済ます人もいれば、私のようにむやみやたらにだだっ広いもいる。こうやって自宅に戻って来て、はあ帰って来た、やれやれ、と一服するくらいはよしとしよう、しかしいっこうに何かを始めるわけでなく、窓の外を眺めたり寝転んで挙句うとうとしたり、そうするうちに日が暮れてしまって、今日という日を酒で洗い流そうとワインを飲み始めたりして、問題は介護ではなく私のたちにあったと思い知ることになる。

投稿者 shiori : 11:18

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