« geometry | ホーム | 風邪っぴき »

2006年11月09日

日記: pick her nose

 ふと祖母の鼻を覗くと琥珀色の糞がこんもり、手があまり動かなくなった彼女、あんなに好きだった鼻ほりも難しくなったようである。片方の穴には管が入っており、もう片方がこんな状態では苦しいに決まっているので撤去に乗り出すのだけれど、人の鼻をほってあげるのはなかなか難しいことに気付いた。塩梅がよくわからないのだ。いきおい祖母も痛がる。仕方ないので薬局に行くと、鼻用ピンセットというのが売っていて驚いた。開きが小さいとか先が丸いなどの工夫がなされている。もちろん赤ちゃん用である。
 祖母の介護をしていて気付いたことだけれど、赤ちゃんグッズは本当に種類も品数も豊富、どこにでも売っていて値段も安い。すべて老人グッズの真逆である。赤ん坊のほうがかわいいのだから当然だ。誰だってもうすぐ死ぬくせに嫌味ばかりいう小汚い人のために散財したくない。最低限のお金と労力を使うのだって精一杯なのだ。
 先日のことである。祖母の太ももに大きなあざが出来ていて、それを見たお風呂屋さんが「これは?」と私に質問した。「知らぬ間に出来ていて」とありのままを答えたのだけれど、その視線はとてもいやらしかった。虐待を疑っているのだ。むろん彼らには虐待を早期に発見して通報するという義務があるので仕方ないけれど、それでも私は嫌な気持になった。疑われたのもしゃくだし、疑われるのが当然なほど虐待が頻繁だという現状にも気が滅入った。業が渦巻ているといえばよいか、介護現場の袋小路感はなかなか迫力がある。
 そう考えると、祖母は本当に幸せな人だ。孫に赤ちゃん用ピンセットで鼻糞をとってもらえるのだ。つまみ出した物体は小指の関節ひとつ分はゆうにあり、思わず溜息がもれた。祖母はしゅうと息を吸い込み、しゅうと吐き出す。こちらの鼻のぬけまでよくなった気がした。

投稿者 shiori : 10:48

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://freedom.s13.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/309

コメントを投稿