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2006年08月16日

日記: sound of summer

 暑いけれど、冷房を好まないので終日窓を開け放している。すると当然のことだけれど様々な音が聞こえてきて、まず夜明け前には必ずアブラ蝉の熱唱で目を覚ます。7年も土にうもっていて、挙句太陽を拝んで7日足らずで死んでしまうとは、と以前は憐憫をかけていたが、蝉の生涯の本編は土の中にあり地上での生活は華麗なエピローグと考えればちっとも悪くない、いわゆる大器晩成じゃないの、岩崎恭子とかホリエモンとかのほうがよほど気の毒なのであって、本当に蝉の声はうるさくてかなわない。
 カラスもなかなかである。屋根をどしどし歩き回り、あっちの屋根の仲間とかあかあかあ、こっちの屋根の仲間とこおこおこお、何やら悪だくみをしている。町内を股にかけて暗躍するさまは高利貸しを連想させてならないのだけれど、図鑑をめくるとカラスはスズメ目とあり、どれだけ凶暴化しようとあなたは鷹やら鷲やらにはなれないたち、おほほ、せいぜいかあかあ鳴くがよろしくて、と鼻で笑うことで腹立ちを抑えている。しかし雑食なんだから蝉を片っ端から食べてくれれば一石二鳥なのだけど。
 午前8時から9時にかけては、飛行機エンジンの爆音が轟きわたる。会話もテレビもまったく聞きとれない。あまりの音に初めて聞いた時はB29が来たかとおののいたというのはちょっとした冗談である。
 そうこうするうちに今度は、犬猫が鳴き始める。これにはいつも笑ってしまう。というのも家の隣が動物病院なのだが、おそらく入院患者の皆さんが「なんか食わせろ」あるいは「お願い、遊んで」と訴えているのだろう、今日は子猫が「にゃあ、にゃあにゃあ、にゃあっ!……にゃあ?にゃあああ?にゃああああああっ!」と鳴いていた。言い分はよくわかった。
 それが夜になると、朝の喧噪とはうってかわって外はいたって静か、秋の虫がりんりんと鳴き、寝転がると窓の奥に月が浮かんでいたりして、なかなか風情のある夕べである。
 しかしこの静寂が曲者で、つまり近隣住民の話し声が時折聞こえるのである。時折、というところがポイント、基本的に関係のない他人の声は聞きたくないのだが、策を講じるほど耳障りなわけでもないのでほったらかしにしていると「ねえねえ、品川庄司っておもしろくない?」などという話し声が耳に入ってくるのである。おもしろくない、と応えそうになる。
 声の主は下の部屋の奥さんで、普段はいたってもの静かなのだけれど、何かの加減で快活になるのかどうだか、そういう日は夜も0時を回っているというのに焼肉の匂いが漂ってくる。そして同時に「肉、食べるヒト〜?」という明るい声が聞こえてくる。
 とここで考えてみるに「○○するヒト〜?」という言い回しを使用する場合、そこには3人以上の人間がいるのが前提であり、2人しかいない場合は「肉、食べる?」と二人称単数で問うのが普通である。下の部屋は二人暮らしである。客人の様子もない。ということは奥さんは軽くふざけているのであって、まあ仲が良いのはよろしいのだけれど、その勢いで「いや〜ん、ばか〜ん」とキクちゃんばりにくねくねして事をおっぱじめられたらいや〜ん、と心穏やかでない。ヴァイスヴァーサ、「そこはおへそなの〜」などというこちらの声(※これはフィクションです)が筒抜けなのも心穏やかではなく、まあ奥さんのせいじゃないけれど、そんなふうに話し声に翻弄されることもある。
 まったく朝から晩まで賑やかなことで、安眠を邪魔された折にはカラスを悪し様に言いたくなるが、カラスもカラスの事情あっての「かあかあ」なのだろう、他意はないのでよしとせねばならない。それに考えてみればこれも一時のこと、あとひと月もすれば眠る時は窓を閉め、み月もすれば日中でもほとんど窓を開けなくなるだろう。もちろん蝉の声も、奥さんの話し声も聞こえない。今は夏なのだなあと思う。

投稿者 shiori : 12:35

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