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2006年06月21日

日記: あめ、りか、じん

 夏暑く冬寒いのは安普請住居の宿命というか、そりゃもううだるような暑さなんである。大家が屋根に断熱材を入れてないので、日光がじかにじりじりと天井を焼いている。階下からも地熱がもわっとあがってきて、これはもう直火焼き両面グリル、燃えちゃって、あたし。
 つくづく思うけれど、大家に貸家を快適にこしらえる考えはない。自分が住むわけではないから、借り手のつく最低限の仕様に留め、普請代を浮かす料簡である。商売なのである程度は仕方がないが、これがエスカレートすると強度偽装をしたり殺人エレベータをあつらえたりするようになるのだろう。
 何でもそうだが、自分が○○するわけじゃないので、という発想で行動すると結果は必ず殺伐とする。廉価品や冷酷な人にはそういう邪悪な影が染み付いているから、見ていて嫌な気持ちになるのだろう。
 まあとにかく暑いのだが、今、少しおもしろいことがあった。
 家の前の道が小学校の通学路になっていて、朝な夕なと子供たちが行き交うのだけれど、その中にひとり、我がマンションに興味を持っている男子がいる。どういう興味かと言えば、塀と塀の間の小径を通ってみたくてたまらないのである。その道は大家の中庭に通じていて、突っ切ればワープしたように別の道に出ることができる。子供心をくすぐるのである。
 しかし、どう見ても人の敷地内だし、彼はずいぶんあぐねていた。なぜ知っているかといえば、先日、物音がするので訝ってドアを開けると、彼が階段から首を突き出してその小径を覗いていたのである。彼は私の顔を見るやいなや、大慌てで階段を下りて「怖いおばちゃんに睨まれた」と友達に報告していた。目をひんむいてもう一度ドアを開ければ、おもしろいおばちゃんになれただろうが、まあそこまで暇じゃないものでね。
 結局、彼は小径を通った。ランドセルの鈴をちりんちりん鳴らして、駆け足で通っていった。その翌日には数人の友達を引き連れて通っていった。その次は女子を案内して通っていった。彼女たちの「秘密基地みたい」と感動する声が聞こえたので、彼はさぞかし得意満面なことだろう。
 そして今(午後3時)、彼らが小径を通り抜けていった。少なくとも20人はいたと思う。その人数にも笑ってしまうのだけれど、さらに彼らはどういうわけか、口々に「あめ、りか、じん、あめ、りか、じん」などという号令をかけながら行進していて、怖いおばちゃんも思わず相好を崩してしまったよ。なんだ、あめ、りか、じん、て。

投稿者 shiori : 19:44

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