« bira-bira | ホーム | サニタリー »

2006年06月08日

日記: 後日談

 私の住まいは二階建てマンションの二階角部屋、ということは真下と隣に住まう人々に関して望まずとも詳しくなってしまう日本家屋の哀しさよ、ましてや安普請の建物であるため「お隣さん、えらく水を出しっぱなしにしてるよ」だの「下の人、もう少しドアを静かに閉められないものかね」だの、さらには「あれは変な咳だね、いけないね」とか「ま、まぐわってやしませんかっ」とかいう個人情報漏洩が甚だしく、廊下や踊り場ですれ違ったりするとなんだかもじもじしてしまう。こちらのことも知られているかと思えばいっそう具合は悪いのだけれど、しかしこういうのは瀟洒な館に住まない限り避けられないものであり、取り立てて問題が起こらなければ上等としなくてはいけない。たとえ隣人の生活を覗いてしまってもあれこれ詮索せずに知らん顔していらっしゃい、それが大人ってもんだ。とわかってはおるが罪なものです、隣には実に興味深い人物が住んでいるのだった。
 そこの奥さんを一目見た大ちゃんは「弱気な落合夫人」と言った、私は「景気の悪いオーヤンフィーフィー」と言った、つまりは伏し目がちでうつむき加減なのに髪型と化粧はいけいけどんどん、自己矛盾をきたさないのだろうか、その旦那という人も一風変わっていて、毛玉だらけのスウェットにつっかけ履いてそこらをうろうろ、見たところ夫婦共々還暦前後だから年金はまだもらえないだろうし、何している方なのかしら、だいたいその年になって未だ持ち家を構えていないとなれば今後も家賃を払い続けねばならないわけで、子供もいるふうはないし、行く末に大きな不安を抱えているのではないか、などとげすの勘ぐりが燃えに燃えていたところ。
 奥さんを見かけたのです、エプロンをしてカーリーヘアーを振り乱して働いていました、しかし「あたし、ほら、隣の者です、まあどうも」なんて気安く声をかけなくてよかったと思うのは壁の張紙に「パート募集 時給800円 勤務時間10:00~20:00で応相談」と書いてあったからで、別に人を憐れむ趣味もないのだけれど頭で素早くそろばんを弾いた私、一日8時間働いたって6,400円、週に4日働いたって家賃くらいにしかならないじゃないですか、と思ったら彼女は週に7日働いていて、うわあ、またいた、ぎょええ、今日もいる、とその勤勉ぶりに舌を巻くと同時に、ああいう場所で文字通り毎日働く人生とはどんな心地がするものなのか、心がずしんとしてしまって、ましてやその彼女の職場というのがくだんのクリーニング屋であり、「びらびらなんです」とうちに電話をよこしたのは紛れもない彼女というのだからいやはやなんとも。

投稿者 shiori : 18:24

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://freedom.s13.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/235

コメント

い、いやはやなんとも…!

コメントを投稿