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2006年05月10日

日記: various jobs 2 メイド

そもそも整えるという作業が好きである。もちろん「興が乗れば」という譲歩つきではあるが、おしなべて整理整頓は得意なほうだと思う。中でも書籍整理は病的なほど好きで、図書館員になればどんなに楽しいだろうかと昔から空想を重ねてきた。うっとりするあまり実際に家を図書館にしようと思いつき(10歳頃)、家中の本に貸出カードを挟んで目録を作り、はんこも揃えて実に用意周到だったけれど、残念なことに借り手がおらず夢はついえてしまった。しかし大人になって知ったことには、図書館員になるためには図書館情報学科とかいう専攻に進まねばならず、あはは、興味ない、と鼻で笑ってしまったため今の私があるということ。
 とにかくそんなわけだから、ホテルのメイドは向いていたのである。誰よりも綺麗にベッドを整えたし、風呂やトイレも磨いた。ドライヤーのコードも美しく巻いたし、床には塵ひとつ落ちていなかった。気分爽快だった。おそらく部屋に入った客も「ふむふむ、ここのホテルはなかなか綺麗であるな」と感心したはずである。チーフのおばさんにも「あなた、とてもお掃除が上手ね」と褒められたものだ。しかし、チーフは続けてこう言ったのだった、「でも、あなたの仕事が遅いから他の人が迷惑してるのよ、もっとスピーディーにやってくれないと」
 つまり、普通ならば1人10部屋掃除すればよいところ、のろまな人がいると6部屋しか掃除しない人と14部屋も掃除する人が出てきてこれは民主的でない、よって一番早い人の速度に合わせて掃除してほしい、というのである。「でもそんなに早くはできないし、一人10部屋のノルマ制ではいけないのですか」と返すと、「だって、あなた、まだ働いている人を見過ごして、私たちも休憩できないわよ、それじゃ私たちまるで極悪人じゃない」と言うのだ。はっは〜ん、なるほど、彼女たちは仕事をとっとと切り上げ、一服しながらくっちゃべって時給を稼ぎたいのである。
「はあ」と浮かない顔をする私に、チーフは矢継ぎ早にアドバイスした。
「まず、掃除機なんてかけなくていいから。風呂もそんなに丁寧に洗わなくていい、蛇口だけ磨いときゃわからないから。トイレもわざわざ雑巾を使うことないの。このバスタオルで拭いちゃえばいいから、こうやってね、ほら、綺麗」
 私もせっかく見つけた仕事を3日で辞めるのも癪にさわるので、チーフの命令通り早くこなそうと努力した。しかし実のところ、私は綺麗に掃除するのが好きなのであって、手抜き掃除など苦痛以外の何物でもなく、ああ、もうやめやめ、正味一ヶ月もたたないうちにメイド業とおさらばしたのだった。
 しかし、この短い期間に私の知ったことは多い。例えば、

・消毒済みという文字はすべて嘘である。
・お茶用ポットにあらかじめ入っている水は3日前のものだったりする。
・枕が二つある場合、サブ枕のカバーはほぼ替えていない。
・もちろん洗濯はするが、フェイスタオル等で便器を拭いている。
・好奇心の強いメイドは必ず、連泊している客の鞄を開けている。
(シングル一泊一万円のビジネスホテル例)

と、挙げればきりがなく当時(18歳)はずいぶん驚いたものだが、実はどのような仕事であれ多かれ少なかれこんな調子であり、いわゆる信用は金で買うものだと知ったのはもう少しあとになってからのこと。

投稿者 shiori : 15:57

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