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2005年06月29日

日記: 6/29

親知らずの手術の日。
事前にたっぷり脳内シュミュレーションしたので恐怖感はあまりない。ダメ押しと称して、最近同手術を受けた従兄弟に電話して予後の詳細を教えてもらう。食事や腫れ具合についてひとしきり話したあとで彼は言った。
「おばちゃんのいうことは信じない方がいいよ、最近の医学はかなり進歩しているから」
おばちゃんとはうちの母のことだが、なんでも今度親知らずを抜くんだというと「あれはひどいわよ、私なんて痛くて失神したから」と脅されたらしく、彼は直前まで恐怖におののいたそうだ。母さんも罪つくり・・・
昨日はお酒もほどほどに睡眠もたっぷり、万全の体勢で手術に臨んだのだが、やはりいざあの椅子に座ると心臓がばくばくする。恐怖の椅子大会があったなら確実に銅メダルをもらえるな(銀は産婦人科椅子、金は電気椅子)などと思ううちに、無情にも椅子はゆっくりと倒されていくのだった。
これが地獄の始まりだった。
一本目の麻酔を打ってしばらくすると、呼吸が荒くなって手足がしびれてきた。典型的な脳貧血の症状。実は以前2本抜歯した時にも、怪我の外科処置の時にも脳貧血を起こした。麻酔薬と関係しているのか、痛みに対する防御なのか、原因はよくわからない。とにかくまた起こしてしまった。
血圧もぐっと下がり顔面蒼白になっているらしく周囲がばたばたと慌ただしくなった。「大丈夫?」と心配そうに医者が覗きこむが、麻酔が効いていてうまく喋れない。弱々しく両指で三角マークを作ると、医者はちょっと笑って「休みながらゆっくりやりましょう」と言ってくれた。
この時点ではまだ親知らずのおの字も抜けていない。前途多難である。

貧血が落ち着いていざ切開。何しろ特大の親知らずなので、いくつにも分割しないと抜けないらしい。ドリルで歯を割っていく。虫歯を削る時はきゅい〜んという意地悪い音がするが、今回はがごごごごという悪魔のような音がする。麻酔の効きが甘いのか、時折神経に触って痛い。痛いと知らせると麻酔を追加する。すると貧血を起こす。休む。再開する。貧血。休む。ふう。
「あとどれくらい・・・?」と息も絶え絶えに聞くと「まだ頭しか抜いてないからあと30分かなあ」と言われてがっかりする。と同時にもうすべてがどうでもよくなってしまい、ある意味簡単な女になった。猛々しく抵抗していたのに、急に全身の力が抜けて目が虚ろ、というやつだ。

それから終盤にかけては、口の中で土木作業員がハッスル!ハッスル!
ドリルフル回転、とんかち連打、ペンチ牽引、歯がみしみしと苦しげな声をあげる。「グラナダ陥落」とか「大坂夏の陣」とかの文字が意味もなくちらつき始めた。敵はしぶとく、なかなかおちない。医者も「まだだめか」とつぶやいている。看護婦に顎を押さえられ、唇をひんむかれて、私の顔がこの生涯でもっとも乱れている瞬間だなあと思った。歯医者ってエロいな・・・とよからぬことを想像し始めた矢先、めりめりめりっという音とずきんという痛みが襲い「ああ、抜けた抜けた」と安堵まじりの声が聞こえて、私は思わずガッツポーズをしたのだった。
その後歯茎を縫合しておしまい、実に1時間半の手術が無事に終わった。
(次回につづく)

と、親知らずの手術は安堵と疲弊のうちに終了したわけだが、でもそれってそんなに大変なわけ?と言われれば、そんなことないです。
ずいぶん恥じているのだけれど、私はどうも痛みにビビってしまっていけない。仕方のないことだが、本当なら貧血なんて起こさずにあれくらいの手術は平然とこなしていたいのに、身体が許容範囲を越えてしまってついていかない。私は「強い」のが好きなのにこれじゃ台なしだ。自分が思うほど私は強くない、というのが最大のコンプレックスかもしれないなとぼんやり考えた。
というようなことを言うと、いやいや根性論はいけませんよ、とか、人はそれぞれですから、とかいう輩が多くてうんざりするけれど、そうではない。弱さを個性と呼んで格上げしたところで何も生まれねっす。自分を追い込んだ彼岸にこそ地平は広がるっす。と意気込んだところで、では明日あたりもうひとつの埋没親知らずを手術しましょうと言われたら、ううむ、やはり嫌ですね・・・

麻酔と痛み止めで朦朧としながら家に辿り着くと、そこにとんでもない光景が!
祖母の部屋の入口にズボンが脱ぎ捨ててあり、その一歩先にはおむつパンツ(サルバDパンツ)が放られてあり、その先のベッドには祖母がすっぽんぽんで横たわっていた。強姦?ではなく、独り遊び?のはずもなく、うんこなのだった。
祖母なりにうんこと激闘した模様で、なんとか便器におさめるべく努力のあとが見られて微笑ましい。家に誰もいない時にどうしたものか、とパニックになったが、どうしようもないのであきらめて寝ていたそうだ。ナイスチョイスだと勉強になった。
夜はさすがに酒も飲みたくないし何かするがしなかったので、『24』シーズン3を観ることにした。何も考えずに観てればいいので抜歯後最適フィルムであった。ジャックは相変わらずのタフガイで、きっと親知らずの手術なんてへっちゃらなんだろうなあと思ったら急にかっこよく見えてきた。
そうだ、目指せジャックだ、とつぶやきながら寝た。

投稿者 shiori : 14:03

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