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2005年09月22日

日記: 9/22

現在のマンションに住み始めて8年目になるけれど、隣人のことをよく知らない。それが当世の在り方なのかどうだか、とにかく両隣りとはほとんど没交渉だ。それでも毎日壁一枚隔てて暮らしているわけだから時には顔を合わせることもあるし、日常の物音や匂いによって生活環境もある程度推測できる。我が家と同じ間取りの家に住まうのだから経済状況も把握できる。そう考えてみると、取り立てて知りたいわけじゃないのに隣人に関する情報は意外に豊富である。

例えば隣人A。
息子二人の4人家族。長男は近所に独り住まいをしているが、夕食は実家に食べに来ることが多い。帰りがけに近所の自販機で缶コーヒーを買って立ったまま一服するのが習慣。次男は引きこもりという話だが真相は不明。いつも夕方になると、エレキギターをかき鳴らす。Emを得意とする。父親はゴルフ好きのようで、私がべろべろに酔って朝帰りをする時間にバッグを担いで出かけて行く。母親と次男には一度も会ったことがない。
例えば隣人B。
娘二人母一人、数年前に長女が嫁いで母娘二人になる。父親は早くにガンで亡くなった(と電話で話すのが聞こえた)。3人ともそれは見事に太っていて、あの体を維持するには仕方ないのだろう、夜11時からカルビを焼き始めるのが常だ。また別の日にはオリジン弁当であらゆる揚げ物を買い込み、またある日にはマクドナルドを買って帰る(エレベーター乗り合わせ情報)。しかし太っているわりには身軽なのが特徴で、一度次女が鍵を忘れたといって訪ねて来て我が家のベランダを軽々と乗り越えて行くのを目の当たりにした。母親は肥えたハウスマヌカンのような佇まいで、夕方6時になると厚化粧のままどこへやら出動していく。行き先は不明。

という彼らだが、共通して言えるのはとても良き隣人ということだ。今までに不快な出来事は一度も起こっていない。これは非常に幸運だと思う。
私はこれまで数々のアパートに住んできたけれど、実に様々なお隣さんがいた。
・幼児虐待遂行中の家(狂ったような泣き声で落ち込む)
・毎日漢方薬を煎じる家(鼻がまがった)
・週刊誌に追われる家(記者が頻繁に聞き込みに)
・夜になると今井美樹の『PRIDE』を十回絶唱する男(寒い)
・激しい男女(・・・)
などを思い出すと今はなんて穏やかな日々なんだろうと思う。

もし壁がシースルーだったら、と時々想像するのだが、たった1m向こうで繰り広げられる世界について私たちは本当に無知なのだ。私が酒を飲んでいるすぐそばで、母は子供を殴り、裸の男女がまぐわい、老人は漢方を煎じる。かくも近き隣人はかくも遠き人々。
私が知覚できる情報など世界の広さの前では塵のようなものだと思うと、思わず身震いしてしまうのだ。
と書いていてはっとしたのだけれど、谷川俊太郎の『二十億光年の孤独』という詩の中に
「二十億光年の孤独に/僕は思わずくしゃみをした」
という一節があって長らくそんなものかなと思っていたけれど、こういうことなんだ!

投稿者 shiori : 11:38

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